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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)29号 判決 1976年10月28日

原告 出川勇

被告 渋谷税務署長

訴訟代理人 伴義聖 室岡克忠 ほか二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  本件各更正処分の経緯

請求原因1項(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各更正処分の違法事由の存否

1  手続上の違法事由の存否

(一)  請求原因2項(一)(1)の違法事由

原告は、旧所得税法二六条の三所定の青色申告の承認を受けている者であることを前提として、本件各更正処分における更正通知書に更正の理由が附記されていないから右各処分は違法であると主張し、右の理由附記がなされていないことは当事者間に争いがない。

ところで、原告が青色申告の承認を受けていたところ、被告が原告に対し、本件各更正処分をする以前の昭和四二年三月一日付の書面で、原告の昭和三八年分以後の所得税について青色申告の承認を取消す旨の通知をなしたことは当事者間に争いがない。

したがつて、本件各更正処分について理由附記を要するか否かは、被告のなした青色申告承認取消処分の効力の有無によつて左右されるものであるから、右取消処分に関して原告の主張する請求原因2項(一)(1)(ア)および(イ)の無効事由が存在するか否かについて判断する。

(1) 無効事由(ア)

本件青色申告承認取消通知書には、処分の相手方の記載がないことは当事者間に争いがない。

<証拠省略>によれば、被告は、原告の青色申告の承認を取消し、その旨を原告に宛てて通知すべく、「所得税の青色申告承認取消通知書」と題し「あなたの青色申告書提出の承認については、所得税法第一五〇条第一項に定める事由のうち、下記事由に該当することにより、その事実があつたと認められる昭和三八年分以後、これを取消しましたから通知します。事由所得税法第一五〇条第一項第 号」と記載された書面(<証拠省略>)を被告税務署名の印刷されてある封筒(<証拠省略>)に同封し、右封筒の表に原告の住所氏名を記載のうえ簡易書留をもつて郵送し、そのころ原告に到達していることが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、所得税法一五〇条二項によれば、青色申告承認取消処分を行なう場合には、相手方に対して書面で通知する旨規定しているが、通知書自体に相手方の住所、氏名を記載することまでは要求されていないから、通知書自体に住所、氏名の記載を欠いたからといつて、その一事をもつて直ちに処分としての効力が生じないとする謂れはなく、通知書および封筒を一体としてみて処分の相手方が特定看取され、かつ右通知書が右の相手方に到達していれば、処分としての効力を生ずるに妨げないものというべきである。しかるところ、本件においては、右の書面と封筒を一体としてみれば、原告に対する青色申告承認取消処分の通知であることは明らかであり、かつ右書面は、原告に到達しているのであるから、本件青色申告承認取消処分の通知書に原告の氏名、住所の記載がないからといつてそのために右書面による処分が無効となるものではないというべきである。

(2) 無効事由(イ)

本件青色申告承認取消通知書に、その取消処分の基因となつた事実が所得税法一五〇条一項各号のいずれに該当するか附記されていないことは当事者間に争いがない。

ところで所得税法一五〇条二項において青色申告承認取消処分の通知書に理由附記を命じた趣旨は、行政行為の慎重性、客観的合理性を担保し、行政庁の恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるところ、本件通知書のように、所得税法一五〇条一項のいずれの号に該当するか記載がない場合には、相手方において、いかなる事実に基づき、いかなる法規を適用して当該処分がなされたのかを了知することができないから、かかる行政処分には、取消し得べき瑕疵が存するものと解すべきである。

しかし、行政行為が行政庁の権限に属する処分としての外形的形態を具有する限り、その処分に関し違法の点があつても、その違法が重大でなければ、これを法律上当然に無効となすべきではないというべきところ、本件青色申告承認取消処分には、法律の要請する理由附記を欠いた違法はあるけれども、形式的には要式行為としての方式の一つを欠き、実質的にはいかなる理由をもつて処分がなされたか不明であるにとどまり、いかなる処分が行なわれたかは明白であるといえるのであるから、当事者としては、かかる行政処分に対して法定の期間内に異議申立をなし、右行政処分の取消を求めることができないとは解せられないので、本件のような違法は処分を無効ならしめる重大な違法に該当するものではないと解すべきである。

したがつて、本件青色申告承認取消処分の通知書に理由附記がなされていないからといつて、そのために右処分が無効となるものではないというべきである。

そうすると、被告のなした本件青色申告承認処分は有効であつて、原告は本件係争年分の所得税について青色申告の承認を受けている者ではないこととなるから、本件更正通知書に更正の理由が附記されていなかつたからといつて、何ら違法とする瑕疵が存するものではないというべきである。

原告の主張は結局失当である。

(二)  請求原因2項(一)(2)の違法事由

<証拠省略>を総合すれば、被告所属の係官河野通朗他一名は、昭和四一年一一月上旬に二回、原告の本件各係争年分の所得税の調査のため原告の事務所に臨み、原告の事業専従者である妻出川貞子および従業員市川勇次に面接し、同人らに事業内容、現金、帳簿記録、領収証等の管理状況等について質問し、かつ帳簿書類の提示を求めたが、原告において記帳されている帳簿は、現金出納帳、売上帳、掛仕入帳および小切手控帳のみであつて、総勘定元帳、経費帳および固定資産台帳の記帳備付はなく、そのため原告の所得を把握することができなかつたので、係官は、さらに原告の取引先の反面調査、取引銀行等の金融機関の調査、株式取得状況、不動産取得状況の調査を行ない、右調査に基づいて、本件各更正処分をなしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、被告が本件更正処分時において調査し把握した原告の売上金額は、係争年順に二一八、五七三、九三四円、二六一、〇五一、九三二円、二八三、五七七、二一一円であつて、原告の申告した売上金額よりも少なかつたとして、それを根拠に本件各更正処分が調査に基づかず、感情や憶測により売上金額を想定してなされたものである旨主張する。

<証拠省略>によれば、右金額は、審査請求の調査担当官小沢才助が原告の求めに応じて原処分の根拠を説明するために作成、交付したメモ(甲第五号証の一、二)に記載されているものであるが、これは原処分の調査担当者が反面調査の結果得た原告の各貸店舗主に対して報告した売上金額であり、あくまでも原告の所得調査過程のものであることが認められる。

したがつて、右売上報告金額が申告売上金額より低額であるとの事実は、むしろ原告の売上除外を疑う資料となりこそすれ、右売上報告金額をもつて直ちに売上金額と認定すべきはずのものではないのであるから、前記金額の記載は、本件各更正処分が調査に基づかずに感情や憶測により売上金額を想定してなされた証左とは到底なしえないものであり、したがつて右事実をもつてしては本件各更正処分が調査に基づいてなされたものであるとの前示認定を覆すには足りないものである。

<証拠省略>のうち右認定に反する部分は採用できない。

原告の主張は失当である。

2  所得金額の認定の適否

被告は、本訴において、実額から捕捉した販売原価から売上差益率によつて売上金額を推計し、これに雑収入金額を加算し、さらに実額から捕捉した諸経費及び専従者控除額を控除した金額を原告の事業所得の金額として主張しているので以下右の所得金額の認定の適否について判断する。

(一)  推計の必要性

原告が、東急デパート日本橋支店、東急デパート東横店、東急食品マーケツト、東光ストアー大森店、東光ストアー五反田店、東光ストアー目黒店、東光ストアー小杉店、東急のれん街および平塚市志沢百貨店等において魚類の小売業を営むものであることは当事者間に争いがない。

<証拠省略>によれば、前記認定事実(1(二)の事実)のほか次の事実が認定できる。すなわち、

原告の現金出納帳の記載によれば、帳簿残高が実残高と一致せず、また銀行の反面調査とも金額、月日に齟齬があり、また売上帳においても記帳額と各貸店舗主や銀行の反面調査の結果との不一致あるいは記帳洩れが認められ、その記帳内容の真実性が疑われた。しかるに、原告は被告の係官の調査に対して納得できる説明をしないのみならず、原始記録の保存状況も悪かつた。しかも調査の過程で架空名義の預金が発見され、その他株式の保有状況、不動産の取得状況から判断すると簿外の所得の存在することが推測されるにも拘わらず、調査に対して原告は全く非協力的であり、原告の記帳している帳簿から原告の所得を直接算出することは不可能であつた。

以上認定のような事情のもとにおいては、原告の売上金額は、これを推計により算出するよりほかに方法がなかつたものというべきであるから、被告において本件課税処分をするについて推計によりこれをなしたことは適法であるというべきである。

(二)  推計の合理性

(1) 販売原価

(昭和三八、三九年分)

昭和三八、三九年分の各販売原価については、被告主張額の限度で当事者間に争いがない。

(昭和四〇年分)

<証拠省略>によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

被告は、原告の販売原価の算定にあたり、現金による仕入金額は現金出納簿の記載に基づいて計算し買掛金による仕入金額は取引銀行の預金元帳に基づいて計算したものである。ところで、原告は、現金仕入に関しては仕入帳を記帳していず、現金出納簿は担当従業員市川勇次が各売場専従者から交付を受けたメモあるいは領収証に基づいて、翌日記入しており、右の記帳は反復的、機械的な作業であつて、作為の介在する余地が少ないものである。

また、原告は買掛金による仕人に関しては買掛帳を記帳、備付けていたが、発生額のみを記載し、支払額と残高の記載をしておらず、記載内容にも不備な点や過誤が認められた反面、右買搭金の支払はすべて銀行を通して行なわれていたものである。

右認定事実によれば、被告が昭和四〇年分の仕入金額を現金出納簿あるいは預金元帳によつて算定したことには十分の合理性が存するというべきである。

そうすると、原告の昭和四〇年分の販売原価は、<証拠省略>によつて認定 (該当箇所に同号証の丁数を記載する。)できる次の(a)(b)の合計金額二二八、三四八、九二七円とするのが正当である。

(a) 現金による仕入金額二三、四四一、八二三円(四四丁)

(b) 買揖金による仕入金額(<1>+<2>)二〇四、九〇七、一〇四円(四五丁)

<1> 当座預金から計算した仕入金額二〇二、九〇四、八〇四円原告の取引銀行である三菱銀行渋谷支店と三井信託銀行渋谷支店の原告名義の当座預金を通じて当該年中に支払われた金額のうち、買掛金の支払に充当されたものの合計額二〇〇、四一六、六七九円(四五丁)から前年末の買掛金残高で本年中に支払われた金額(前年中に掛仕入した商品代価で前年末で未払となつている金額)一七、六九六、七八九円(四五丁)を控除し、右金額に当該年末の買掛金残高(本年中に掛仕入した商品代価であるが、本年末に支払未済となつている金額)一九、五三六、八一四円(四五丁)と本年中に振出した商品代価の小切手であるが本年末に支払未済となつている金額六四八、一〇〇円(四五丁)を加算すると、二〇二、九〇四、八〇四円となる。

<2> 普通預金から計算した仕入金額二、〇〇二、三〇〇円、昭和四〇年中に買掛金の支払に充てられた金額二、三二七、三〇〇円から前年末の買掛残高で昭和四〇年中に支払われた金額三二五、〇〇〇円を控除すると二、〇〇二、三〇〇円となる。

原告は、昭和四〇年分の仕入金額は二二七、六九七、三一一円である旨主張し、証人市川勇次は、右金額は、同人が請求書、現金出納簿から算出したと証言するけれども、本件全証拠によるも、右証言に対応する資料は明らかでないので右証言はたやすく採用することができず、他に前記認定を覆して原告主張額を認めるべき証拠はない。

(2) 売上金額

被告は、本件各係争年分の原告の売上金額として、販売原価から売上差益率によつて推計した金額を主張する。

そこで、被告の採用した売上差益率の合理性の有無について判断する。

(a) <証拠省略>を総合すると次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

原告は、本件各係争年ころデパート、マーケツト内に一〇店前後魚類小売の店舗を構えていたので、審査請求の審理にあたつた担当協議官は、デパート内の各店舗のうちから東横百貨店新店地下売場を、マーケツト内の各店舗のうちから武蔵小杉駅前東光ストアー地下売店をそれぞれ抽出して臨店し、売上差益率算出のための調査を行なつた。

右調査の内容は、先ず右二店における取扱全商品につき、原告の次男出川和男の申立に基づき、売値とこれに対応する仕入値を確定し、これから各商品別の差益率を別表(二)、(三)のとおり算出した。

次に、全商品を貝類、小物、干物、切身、刺身の五品目に分け、各品目別の差益率を単純平均により別表(四)のとおり算出した。

そして、右各品目別の差益率から品目毎の売れゆきを考慮した加重平均により店舗全体の差益率を算出したが、その方法は、東横百貨店新店地下売場、武蔵小杉駅前東光ストアー地下売店につき、それぞれ昭和四三年六月一日乃至同月一〇日、同年五月一〇日乃至六月一〇日までの仕入伝票から各品目の全商品に対する割合(仕入品目の仕入ウエイト)を算出し、各品目の売上差益率に右割合を乗じて算出したものである。その結果は、別表四のとおりである。

最後に、原告が営業を行なう全店舗につき、デパート内の店舗とマーケツト内の店舗に二分し、売上高に応じた割合を求めると別表(五)のとおりとなり、右割合に従つて、それぞれ、東横百貨店における差益率、武蔵小杉駅前東光ストアーにおける差益率を適用して、原告の各係争年分の売上金額を算出すると、その結果は、被告主張のとおり、昭和三八年分については、二二八、九五三、三四七円、昭和三九年分については、二七〇、四三〇、九五九円、昭和四〇年分については、三〇〇、〇一三、六三九円となる。

右認定事実によれば、被告が本訴において主張している売上差益率は公正・正確に算出されているといえるので、これによる推計には合理性があると解するのが相当である。

(b) 原告は、右差益率は不合理であるとし、その理由として、(ア)夕方になれば半値近くに値引しなければならないものもある。(イ)翌日は廃棄するようなものもでてくる。(ウ)被告の用いた差益率は係争年より後になつて調査したものである旨主張する。

(ア) <証拠省略>によれば、原告において値引して販売している事実は認められるが、右差益率の資料とした各商品別の差益率は、審査請求担当協議官が、原告の店舗に臨場して、調査し、原告の次男出川和男に売値に対応する仕入値を記入させたものであり、<証拠省略>によれば、まぐろとろ(売値四〇〇円、仕入値三五〇円)、小鯛(売値一二〇円、仕入値一一〇円)、生さけ(売値七〇円、仕入値六五円)、大兵平目(売値三五円、仕入値三〇円)等差益幅が非常に低い商品が含まれていることが認められ、このことからすれば、和男は、商品差益率の調査にあたり、当日の値引を考慮して、売値、仕入値を申告したものと推認される。

(イ) <証拠省略>によれば、一般に、魚類小売商にあつては、冷蔵庫の利用、仕入量の調整等により、特段の事情の存しない限り、商品を廃棄することはないことが認められる。

したがつて、原告の(ア)および(イ)の主張は採用できない。

もつとも被告は、商目別の差益率の算定の過程において、<証拠省略>のうち、さしみ盛合せ(売値二〇〇円、仕入値二〇〇円)、鯛さし(売値二〇〇円、仕入値四〇〇円)等仕入値以下の売値の商品は算定の基礎として採用しなかつたものであるが、<証拠省略>は、出川和男の申告に基づいて記載されたものであつて、およそ特定の商品に関して常時仕入値を割つて売ることは、特段の事情のない限りは考えられないものであるから、これらの記載はたやすく措信しがたく、したがつてこれらの商品を除外して売上差益率を算定した被告の推計方法に不合理は認められないというべきである(なお、値引した結果、仕入値を割るということはありえないでもないが、売上差益率算定の過程でこれらの商品を含めることは特定の商品につき常に仕入値以下で売却することを意味し、これらを含めては到底合理的な差益率を算出することは不可能であるというべきである)。

また、被告の差益率に関する臨店調査は一日のみであり、仕入価格は毎日変動するものであるといえるが、売上価格も仕入価格に応じて決められるのが通常であり、特段の事情がない限り、当日の仕入価格の変動が差益率に影響を与えるものとは解せられないので、特殊な状況の認められない本件調査にあつては、調査が一日であることから、差益率算定の基礎資料として使用するには不合理であると断ずることはできない。

(ウ) 本件のように他の資料からみて過少申告の事実が窺われ、かつ帳簿等の資料が不十分なため納税者の所得金額の実額が把握できない場合には、係争所得年以降に調査した資料に基づき原告の所得金額を推計することも、やむをえないというべきところ、<証拠省略>によれば、差益率は年を異にしてもほとんど変動しないものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがつて、本件各係争年後の調査資料に基づいて、原告の所得金額を推計した被告の方法に不合理はないというべきであつて、原告の(ウ)の主張も失当というべきである。

(三)  必要経費

原、被告間に争いのある必要経費について検討する。

(1) 雇人費(昭和三八、三九年分)

<証拠省略>によれば、原告の昭和三八、三九年分の雇人費は、現金出納簿に記帳されている人件費、アルバイト費の合計で、それぞれ一〇、六六九、七四八円、一二、二八〇、七〇〇円となることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は、昭和三九年分につき七月と一二月にアルバイト費として八八二、〇〇〇円を支出したところ、現金出納簿への記帳を失念したので、右金員も経費に含まれるべきである旨主張するが、<証拠省略>は具体性に乏しく採用の限りではなく、他に右主張を認めるに足りる的確な証拠はないので、原告の右主張は理由がない。

そうすると、右認定にかかる雇人費は、各年とも被告の主張する金額(昭和三八年分については、認定額のとおり。昭和三九年分については、一二、二八二、七〇〇円)を超えないことになる。

(2) 減価償却費(建物、昭和三八年ないし四〇年分)<証拠省略>によれば、原告の木造事務所の取得価額は二六九、八〇〇円(事務所につき昭和三七年中に三七、〇〇〇円の資本的支出があつたことは被告の自陳するところであるのでこれを加算すると三〇六、八〇〇円となる)、木造店員宿舎の取得価額は、七〇九、六〇〇円であることが認められ、これに反する証拠はなく、右は被告の主張する取得価額(事務所につき六三七、〇〇〇円、店員宿舎につき一、二〇〇、〇〇〇円)を超えないので、被告の主張に違法はない。右認定に反する<証拠省略>はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、本件各係争年の減価償却費は、左表の通り五九、四五二円となる。

資産区分

取得価額

償却の基礎

となる金額

償却方法

耐用年数

償却率

算出償却額

償却期間

事業割合

償却費

合計(<1>+<2>)

建物木造

事務所

六三七、〇〇〇円

五七三、三〇〇円

定額法

一〇年、〇三四

一九、四九二円

一~一二

一〇〇

<1>

一九、四九二円

五九、四五二円

建物木造

店員宿舎

一、二〇〇、〇〇〇円

一、〇八〇、〇〇〇円

定額法

二七年、〇三七

三九、九六〇円

一~一二

一〇〇

<2>

三八、九六〇円

(3) 店舗料 (昭和三八年ないし四〇年分)

<証拠省略>によれば、原告が各店舗の貸主に支払つた店舗料の実額は、各年順に二七、八二二、九三〇円、二六、二九〇、六五四円、二三、〇七八、五一一円であることが認められる。

これに対して原告は、店舗料は売上金額に対する割合で決められており、その割合は各店舗によつて異なるが、平均して一〇%として店舗料を推計するのが合理的である旨主張するけれども、前記金額が、貸店舗主に対する反面調査の結果把握した実額である以上、右によるべきであつて、原告の主張は採用しがたい。

(4) 借入金利子、割引料(昭和三八年ないし四〇年分)

成立に争いのない乙第一六号証によれば、原告の借入金利子、割引料は、三菱銀行渋谷支店の原告名義の普通預金および当座預金から支払われた金額の合計で、各年別に順に一七三、三六〇円、一六八、三六〇円、一四二、五三〇円であることが認められる。

原告は、当座貸越の利息に相当する金額を経費とすべきである旨主張するが、本件全証拠によるも原告主張の事実を認めることができないので右主張は採用することができない。

そうすると、右の借入金利子・割引料は、各年とも被告の主張する金額(昭和三八年分につき一七四、一六〇円、昭和三九年分につき一六九、三六〇円、昭和四〇年分につき一四三、三三〇円)を超えないこととなる。

(5) 貸倒引当金(昭和三八年ないし四〇年分)

前記認定のとおり本件青色申告承認取消処分により原告は、青色申告者でなくなつたために、旧所得税法施行規則一〇条の五により、貸倒準備金勘定への繰入額は、必要経費に算入されず、また従前からは積立てられていた貸倒準備金八〇〇、四七四円については、昭和三八年分として、同規則一〇条の八、二項(昭和三九年政令六九号による削除前のもの)により、右金額の三分の一の二六六、八二四円が、昭和三九年分として、同規則附則四項(昭和三九年政令六九号)により右金額の三分の二の金額五三三、六五〇円は、貸倒引当金勘定に繰入れた金額とみなされて、総収入金額に算入されることとなる。

(6) 専従者控除額(昭和三八年ないし四〇年分)

前記判断のとおり、原告は、青色申告者でなくなつたために、原告の事業専従者控除額は、昭和三八年分につき、旧所得税法一一条の二、三項一号、同法附則(昭和三八年法律第六六号)四条により、七三、七五〇円、昭和三九年分につき、旧所得税法一一条の二、三項一号、同法附則(昭和三九年法律第二〇号)三条により、八六、三〇〇円、昭和四〇年分につき、新所得税法五七条二項一号及び同法附則(昭和四〇年法律第三三号)四条により、一一二、五〇〇円となる。

(7) 荷造運賃(昭和三九年分)

原告は、荷造運賃費として、東光ストアー専用の包装紙代一か月五五、〇〇〇円を月々支払い、合計六六〇、〇〇〇円にのぼる旨主張し、証人市川勇次および原告本人は、右主張に沿つた供述をしているけれども、他方、右各供述によると、右の支払に関して記帳はなく、領収証も保存しておらず、金額も明確に記憶していないというのであるから、右各供述はたやすく採用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はないので、結局、原告の右主張は採用できない。

(8) 旅費通信費(昭和三九年、四〇年分)

原告は、被告の主張額のほかに昭和三九年については志沢百貨店に電話料として支払つた金額として、七、八一三円、昭和四〇年については、電話料として、六、〇七三円、その他の費用として一〇五、六六六円を加算すべきであると主張する。

しかしながら、<証拠省略>によれば、原告の現金出納簿もしくは小切手支払のいずれにも原告主張に沿う支払をなした旨の記載はなく、結局、支出の事実がなかつたものと認められ、右認定に反する<証拠省略>はにわかに措信しがたく、他に原告の主張事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、原告の右主張は採用できない。

(9) 事務費(昭和三九年分)

原告は、昭和三九年分の経費として、気生堂に支払つた八、四〇〇円が控除されるべきである旨主張する。

<証拠省略>によれば、原告は、右主張のとおり印刷代として八、四〇〇円を支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、昭和三九年において必要経費に算入される事務費は被告主張額に八、四〇〇円が加算されることとなる。

(10) 寄付金(昭和三八年ないし四〇年分)

原告は、昭和三八年分の経費として、店舗の貸主である東横、東光両会社の従業員合同リクリエーシヨン費、風船代、北町会祭礼寄付金、昭和三九年分の経費として、明治神宮崇敬会への寄付金、志沢百貨店従業員の旅行会会費、昭和四〇年分の経費として、大島火災見舞金、東横食糧品課旅行会費、川魚供養、北町会祭礼寄付金名義の支出も含まれる旨主張する。

<証拠省略>によれば、原告が右各名目で、原告主張のとおりの支出をした事実が認められる。

被告は、領収証等支出を窺わせるに足る資料の不存在を根拠に右支出を否認するが、かかる支出においては領収証等を発行しない場合も多いといつてよいので、領収証等の不存在の事実は右認定を左右するものとはいいがたい。

証人市川勇次の証言、原告本人尋問の結果によれば、明治神宮崇敬会寄付金は、市場の職員に明治神宮の世話人がおり、同人の勧誘に応じて支出したことが認められるが、右が収入金額を得るために直接要した費用或は所得を生ずべき業務に関連して生じた費用であることを首肯せしめるに足る事情につき何ら立証がないから、これを必要経費であるとすることはできない。

しかしながら、前掲証拠によれば、東横東光両会社の従業員の合同リクリエーシヨン費、志沢百貨店従業員の旅行会会費、東横食糧品課旅行会費は、いずれも、原告の貸店舗主の従業員との間の催事に関連した支出であり、風船代は、百貨店の売出日に支出したものであり、祭礼寄付金は、原告事務所在地の祭礼に際して支出したものであり、大島火災見舞金、川魚供養費は、魚屋の業務続継上、相応の支出というべきであつて、これらはいずれも、社会通念上、業務について生じた費用であるということができ、経費として、原告の売上金額から控除されるべきである。

そうすると、本件各係争年において原告の必要経費に算入されるべき寄付金は、順に二〇、八〇〇円、一三、三六〇円、三六、〇〇〇円となる。

(11) 備品費(昭和三九年分)

原告は、昭和三九年中に購入した自動車用ボデイカバー代金八、五〇〇円が必要経費に算入されるべきであると主張する。

<証拠省略>によれば、原告主張のとおりの支出があつたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

してみると、昭和三九年において必要経費に算入される備品費として八、五〇〇円が認められるべきこととなる。

(12) 接待交際費(昭和四〇年分)

原告は、被告の主張額を超える部分一五四、一〇〇円のうち、三四、一〇〇円はテレビジヨン購入代金であるので、経費に算入されるべきであると主張する。

<証拠省略>によれば、原告は、昭和四〇年中に従業員寮に備えつけたテレビの代金として三四、一〇〇円を支出したことが認められるが、被告は、右購入資金を減価償却資産として資産勘定に振替え、その償却費を必要経費に算入しているので、結局原告の主張は認められないこととなる。

原告の前記主張額のうち、右以外の分については支払先、支払年月日、支払用途等が具体的でなく、本件全証拠によるも、右主張に該当するような支払の事実を認めることはできないので、原告の主張は採用しがたい。

そうすると、原告の本件各係争年の経費のうち、被告の主張額を超えるものは、左表のとおりとなる。

経費項目

認定額(円)

被告主張額(円)

昭和三八年分

寄付金

二〇、八〇〇

昭和三九年分

事務費

一八、九五九

一〇、五五九

寄付金

一三、三六〇

備品費

八、五〇〇

昭和四〇年分

寄付金

三六、〇〇〇

三  結語

原告の本件各係争年分の総所得金額は、売上金額から販売原価を控除し、雑収入金額を加算し(雑収入金額については当事者間に争いがない。)、経費を控除すると、昭和三八年分については、一四、三六六、八七六円、昭和三九年分については、一六、五八二、六九〇円、昭和四〇年分については、一六、七五四、二七七円となり、いずれも本件各更正処分における総所得金額(昭和三八年分は、一一、二九六、五五六円、昭和三九年分は裁決により減額された一三、二七七、三九三円、昭和四〇年分は裁決により減額された一六、五二七、〇八三円)を超えるので、本件各更正処分に、原告主張のような、所得金額を過大に認定した違法は存しない。

よつて、本件各更正処分および本件各賦課決定はいずれも適法であり、これが違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正久 山下薫 飯村敏明)

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